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北海道札幌市に拠点を置く「北海道テレビ放送株式会社(HTB)」は、全国に数あるローカル局の中でも老舗といえるステーションだ。そして次世代の動向を的確に見据え、他局に先駆けてノンリニア・テープレスのシステム環境を整えた局でもある。そのシステムの中核としてカノープスのHDWSシステムが導入されている。今回は機器導入に大きく関わられている技術センターの三井和彦氏にTV局としてのシステム導入に対する意識などについて色々と語っていただいた。

【編集機はよりよいコンテンツ作成のための道具】

TV局にはTV局ならではの映像制作に対するスタンスがある。2006年6月にデジタル開局も果たしたHTBでは、時代を先取りした先進的なスタンスで映像制作に当たっており、そしてその現場では数ある編集システムの中からカノープスのHDWSシステムが選択された。

お話を伺った技術センターの三井和彦氏

− 現在、カノープスのHDWS編集システムは、何セット入っているのですか?

SD(REXCEED)が5セット、HD(HDWS-1000)が5セット入っています。割り振りは、SDが情報ワイドで4台、深夜のバラエティで1台。そしてHDが情報ワイドに2台、報道に2台、あと今までに放送されたドキュメンタリー資産をアーカイブ化するため専用に1台となっています。  

HDWS-1000で編集作業中の様子

− HDに対応した編集システムの導入を検討され始めたのはいつ頃からのことですか?

昨年(2005年)の5月〜6月ぐらいのことでした。これからHDのノンリニア編集システムが何組か必要になるだろうということで機種選定を行い、実際に導入したのは、2005年の11月のことでした。

− HDのノンリニアの必要性はかなり感じられていたのでしょうか?

必要性として一番大きいのは今年の6月1日のデジタルの開局ですね。それに対してHD編集機が1台もないというのは問題があるだろうという考えは、私たち技術系でも、情報制作系でも同様に持っていました。どこかの段階で自分たちの道具の1つとして何式か必要になると思っていました。

− 新時代に対応していくためには欠かせない道具であったわけですね。

デジタル新時代に対応するということはもちろんあるのですけど、それ以上にテレビ局としてはまずはコンテンツをきちんと作るということがメインで、それはHDだからSDだから、ということではないと私は思っています。やはり魅力あるコンテンツを作るということが第一なのです。
それに対して制作サイドの要求にできるだけ応えるのが我々技術の仕事なのではないかと考えています。つまり取材・編集現場にいるディレクターたちにとっては最新機器を使うことに意味があるのではなくて、それでどういうものが作れるのかということが大切なわけです。編集をして1本の作品を作り上げるという過程において、編集システムというのはあくまでも道具なのです。

− なるほど。コンテンツの質をよりよいものにしておくことこそが第一命題であって、編集機はそのニーズを実現するための道具であるということですね。

そうです。ディレクターにしてみると、作ったものが自分たちの意図するところを十分に表現できたものなのか、ということがすべてなのです。逆に言えばディレクターたちが表現をしたいと思う内容が十分に表現できるような機器が必要なのです。

− そうした観点から機器の導入を検討された結果、HTBではカノープスのHDWSを選択されたわけですが、その決め手となったのはどういったところだったのでしょう。

HDのノンリニアを入れるという機種選定の作業においては、いくつかのメーカーから製品をお借りして、実際に触らせていただいて選定しました。
諸製品の中でもカノープスのHDWSは、機能面や使い勝手などについては全く問題がなく、スピードも十分でした。ディレクターたちの創作意欲を満たすに十分な機器であると判断できました。そしてなんといってもコストですね。総合的にみてコストパフォーマンスがもっともよかったのがカノープスのHDWSで、それが最終的には導入の一番の決め手になりました。

ラックに収められたHDWS-1000
その下にはオプションのRAIDユニットが設置されている

【業務フローを考慮したシステムを構築】

HTBでは良いコンテンツを作っていくためには、それを作り上げるための業務フローを全社的にしっかり確立しておくことこそ重要だと考えている。HTBの業務フローはどういった形になっているのだろうか。

− ディレクターさんたちの思いを忠実に表現できるようにしていくためには個々の機器に加え会社全体の業務体系も合理的で効率的なものにしなくてはならないかと思いますが、そのあたりについてはいかがですか?

うちの局独自だと思うのですけど、「映像の編集」「音の編集」「CG系の編集」の3つが完全に独立して、それぞれの部門ごとに専門家がついて編集作業を行う体制になっています。それがネットワークで全部つながって、オンエアーにまでつなげていくという形なのです。それに対して障害になるような機種は選定できない、というのが大前提でした。

− 完全にデジタルでテープレスの環境ということですね。

まだ、完全とは言えないと思いますが……。うちではビデオサーバーシステムとしてグラスバレーの送出サーバーシステムがあり、テープレスでオンエアーをしていたのですが、「映像」「音声」「CG」のワークフローができあがったのがカノープスのSDが5台入ったときでした.。
そこにさらにHDが加わってきたという形です。ですのでもう後戻りができない状況です。つまりテープでやるとしたら、音も付けられない、オンエアーもできないという状態になってしまいますので。

HD-SDIとHDコンポーネントを変換するHDSC1
その右はDVとSD-SDI変換のADVC-1000

− 具体的な作業の段取りを教えていただけますか?

作品を作っていく順序としては、いわゆる映像だけの完パケにしたムービーのファイルを共有の素材サーバーに放り込んで、それをMAの方ではそこからファイルを取り出して画を見ながら音の加工をします。そうしてできあがったものをサーバーに転送してオンエアー、という手順になっています。すべてデジタルでネットワークを通してという体制になっています。

− カノープスのSDを5台入れたところでそうしたワークフローができあがったとのお話しでしたが、HDを追加するに際して問題点はありませんでしたか?
HDを導入する際に検討したポイントとしましては、それまでにSDのEDIUSの環境があり、うち独自のワークフローがありましたので、HDを導入するとしてもそのワークフローが崩れないようにということが大前提でした。
すでにカノープスのシステムを使わないとできないワークフローになっていますので、それからはずれると稼働率が下がってしまうことになります。それはどうしても避けたかったわけです。逆に言えば、カノープスのマシンを中心にワークフローが組まれているということです。
北海道テレビではHDWSの他にREXCEEDも稼動

【カノープスシステムの現場でのメリット】

HTBでは今やカノープスのシステムがなければ業務フローが成り立たない状態になっているというが、実際にカノープスのシステムを導入してみての現場からの率直な感想について聞いてみよう。

− 実際に導入してみて、現場の声や感想はいかがでしょう?

実際の導入に際して困ったことというのは特にはなかったですね。それまでにSDのワークフローができあがっていましたので、それがHDになったことで何かができないということはありませんでした。ただ、SDに比べるとHDは負荷が重いですから、ディレクターたちは当初はスピード面でちょっと戸惑いがあったのかなと思いますね。
あと評判が良い点としては、ほかとの比較になると思うのですが、うちでは、静止画システムが「VWS」というシステムでできあがっていまして、HDWSの「VWSインポートプラグイン」により静止画の受け渡しが非常に小さいサイズになり、加えてロールスーパーが簡単に実現できるというのが良かったですね。
私たち技術部の人間としては、ほかのメーカーさんのものと比較している中で負荷が軽いというメリットがあると感じています。

− ほかにはありますか?

私はいくつかのメーカーの製品を使ってみたことがあるのですが、HDWSについてはやはり堅牢性が高いというのは間違いなくカノープスの特徴だと思います。昔は編集中に落ちてダメになったというケースもままあったのですが、カノープスの製品ではそういうことは起こりませんね。非常に安定して使えています。
また、カノープス製品はHDの環境でもリアルタイム性が高いということはいえると思います。現在うちでは報道ネタはSDというのが基本なのですが、報道の中でもHD対応できるような素材についてはHDで編集するということが徐々に始まりつつあります。HDVがリアルタイムで編集できるというのはかなりのメリットになっていると思います。

HDV編集用にHVR-M25Jが用意されている

− ソフトウェアのEDIUSについてはいかがでしょう?

EDIUSについてはHDVも問題なく使えていますし、リアルタイム性も高いですし、何かができなくて困るといったことはありません。ネットワークを通してファイルのやり取りをするときにも便利に使えるというところがやはり魅力ですね。
あと、カノープスではサポートが心強いですね。ディレクターたちの中にはいつでも連絡が取れて、サポートをしてくれるところでないとダメだという人間も多くいますので。結局、ディレクターにしてみれば編集機がないと何にもできなくなってしまうわけですから。

将来的にはSAN環境による統合を目指すHTBでは、先進的な考えを持ちつつも、ローカル局ならではの特色を打ち出していこうとしている。そうしたHTBの将来的なシステム構想について伺ってみよう。

− 東京の局との絡みもあるとは思いますが、現在の送出はSDですよね?

そうです。送出部分にはSDのサーバーしかありませんのでSDはそのままサーバーからオンエアーできるのですが、HDはまだテープ吐き出ししかできない状態です。MAにはダウンコンバートしたファイルを渡して、そこから音ファイルを返してもらってHDでリップシンクを取ったものを完パケとしてテープに吐き出して、そしてテープでオンエアーという形が現状です。

− 将来はやはりHD対応を考えていらっしゃいますか?

将来的にはもちろんHDのサーバーを入れて、すべてをサーバーからオンエアーできるようにしたいと考えています。

− トータルなシステム構成の将来像のようなものは、ありますか?

やはり最終的な形はSANに落ち着くのかと思います。素材サーバーを中心としたシステムですね。今はそれぞれの独立した編集機がネットワークにつながっているというイメージなのですが、次はSANを中心としてすべてが一つのコアのストレージにアクセスできるようなものを構築したいな、と。そうすることによって今のワークフローの欠点が解決されるのかなと思っているんですよ。

− システム全体をSANにしていく構想の中で、具体的にはどのあたりにポイントを置かれますか?

柔軟性のあるプラットフォームということもそうですが、それと同時に当然AAFだとかMXFだとかいったオーサリングフォーマットの統一、アプリケーション間のプロジェクトの共有といったことができるようになれば大きく改善されることと思います。局によってやり方は違うかも知れませんが、取材したビデオ素材をはじめ、静止画、CG、スーパー、音響効果など、完パケ作品に仕上げるまでに必要となる要素を網羅し、かつ一元的に扱えるようなシステムが望まれるのです。

− テープレスで、かつ各種の要素を一元的に扱えるような柔軟なシステム構成というのは、各地のローカル局なども目指しているところです。

デジタル開局をした今、うちではすでにテープレスのネットワークシステムについてはある程度はできあがっていますので、その完成度をより高めていき、そしてそれをさらに一歩進めてSANまで持っていきたいな、というところなのです。要するに映像の編集、音の編集、CGの編集ということを経てオンエアーにつなげるという作業をどれだけ効率的にしていけるかということではないかと思うのです。



− それでは最後に、これから編集機も含めてシステムの構築を考えているローカル局やCATV局に対して、導入の際に検討しておくべきポイントなどがあれば、ご提言いただけませんか?

私のキーワードは、「テープレス化」です。局内のワークフローはなるべくネットワークを通してオンラインでこなしていくという方向に持っていくことが効率的な運用へとつながっていくと思います。
スタンドアローンでやる分には、リニアに対するノンリニアのメリットというのはさほど出てこないと思います。例えばテレビ局でしたら、美術室というところがあって、そこでCGを生成されているところがほとんどだろうと思うのですが、そうであればなおさらネットワーク化・テープレス化を進めるべきです。編集に際してテロッパーシステムを省略するなど、効率的でコストパフォーマンスのいい設備導入ができると思います。その辺が局にとってのキーワードになるのではないかと思います。

− ノンリニアならではの特性を十分に生かしたシステム作りが必要とのことですね。

テープですと、ノンリニアなら必要のないところにもデッキをぶら下げるといったことが必要になります。また、当然完パケができるまでの時間も余計に必要となりますし、静止画にしても外付けのシステムから取り込む作業が発生するなど、効率的ではないと思います。ノンリニアのメリットというのは、ネットワーク化による効率的なワークフローを構築できる、というところにこそあると思います。そして、さらにその先にあるのはSANのようなシステム構築ということになろうかと思いますね。

【システム構成図】

HDWS-1000 5台、REXCEED 5台などはHUBを経由してファイルサーバーに蓄積している。素材サーバーと送出サーバーにはグラスバレーのProfile XPが採用され、NewsEditも導入されている。

北海道テレビ放送株式会社(HTB) http://www.htb.co.jp
〒062-8501 札幌市豊平区平岸4条13-10-17
電話:011-821-4411

昭和42年12月創立、昭和43年11月に開局し、間もなく40周年を迎える「北海道テレビ放送株式会社」、通称「HTB」は、テレビ朝日系列の局。地方局ならではの番組も多数制作し、北海道エリアの市民に親しまれている。最近では、北海道では絶大な人気を誇るユニークな旅バラエティ番組「水曜どうでしょう」の全集DVDも発売され、口コミやインターネットを介して、全国的にも大きなブームを巻き起こしている。