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【新システムの根底思想は「テープレス」。リニアの使い勝手に近い感触を重視】 将来を見据え、完全テープレスのシステムを導入した岐阜放送様ですが、使い慣れたテープシステムでの運用をデジタル方式に切り替えるには若干の抵抗、戸惑いもあったようです。そうしたことも含め、まずは導入の経緯などについて、放送業務本部 統括副本部長の川嶋哲司氏と放送実施グループの岡本康男氏にお話しいただきましょう。 − 新システムが正式に稼働開始となったのは、いつのことでしょうか?
川嶋氏:実は、旧社屋でも先行導入で同じ形のものを入れていました。当初の予定では、この岐阜駅前のビルが出来上がるのは2006年12月だったのですが、それが2007年の秋まで延びてしまいました。中京地区というのはデジタル先進エリアでして、他局さんが続々とデジタルに移行していく中で、うちだけデジタルでないというのは視聴者様にも申し訳ないことですので、新社屋の完成前にとりあえずデジタル放送だけは当初予定でスタートしました。 − 新システムを立ち上げるにあたって、重要視していた点はどのあたりでしょうか? 川嶋氏:今回の新システムの導入では、まずはテープレスということが思想の根底にありました。現場サイドからの声は「ワンソース・マルチユース」ということで、コンパクトな中ですべてに汎用できるようなシステムを目指すというものです。一つの素材で全てができるような形になれば、予算的にも有利であろうと。また、新社屋完成という、リニューアルどころではなくまったく新しく生まれ変わるという状況は、革命的なことをやるチャンスでした。その機を逃さずにテープレスでのノンリニア編集システムの導入に始まり、直接送出までできるようにしていこう、ということになりました。 − システムの検討期間はどの程度あったのでしょうか? 川嶋氏:テープレスを主眼としたシステムを検討し始めたのは、ここ2〜3年のことですね。編集機器の選定やシステム構築に関しましては、まずはマスターのサーバーシステムを検討し、同時に編集からの送出も考えていきました。いくつかのメーカーの製品が混在することになりますので、機器の選定では、メーカー間での整合性も重要な要件でした。新システムに関する最終決定が出たのは2007年の春過ぎで、その後、夏に向けて細かなところを決め込んでいったという感じですね。 − システムは順調に稼働していますか? 川嶋氏:サーバーは順調ですね。ネットワーク関連の新しいシステムはトラブルが出て当然などといわれることもありますが、K2 EDIUS Shareに関しましては、それは当てはまらないと思います。企業の基幹システムなどと同様に、放送という絶対に止めてはいけないシステムですので、安定稼働は何よりもありがたいところです。 − リニアのテープからノンリニアのテープレスへの移行に関して、現場の声はどうだったのでしょう? 川嶋氏:現場の率直な声でいえば、まさにオペレートしている人たちにしてみますと、リニアからノンリニアへの移行に対して苦手意識が無かったとは言えないと思います。何しろ、今までとは全く違ってしまうわけですから。テープに慣れた人間であれば誰しもが若干の抵抗感を持つものではないでしょうか。 − それは、操作体系が変わってしまうことへの抵抗感ですね。 川嶋氏:リニアに習熟していた人間にとって、パソコン上で編集することに対する違和感というのはあるわけです。しかし、編集のフロントエンドとなるEDIUSも含め、HDWSやREXCEEDは、テープに慣れた人間にも馴染みやすいような、いわばリニアの使い勝手に近いシステムだと思いますので移行は違和感なくいけたようです。現場としましても、新しい機材だからといって発想の転換を図らなくてもよかったのではないかと思います。移行のしやすさというのは、他のメーカーやブランドにはない、HDWSやREXCEED、EDIUSの非常によい点だと思います。
【編集室の空き待ち状況を大幅に改善。作業効率もアップ】 次に、新しい編集システムについて、導入して得られたメリットなどについてお話しいただきましょう。 − 編集機関連について、実際に導入されていかがでしょうか?
− 今、編集できる場所は何ヶ所あるのでしょうか? 岡本氏:現状、編集できる場所は、第1、第2、第3編集室とMA室、それにテレビサブ(副調整室)ということになります。MA室は、名前はMAとなっていますが、同じ編集システムが入っていますので、もっぱら編集で使っています。以前は、編集室の取り合いがあったのですが、その問題はほとんど解消されました。入っている機材はHDWSであったりREXCEEDであったりと少々違いますが、編集作業自体はほぼ同じ環境で行えます。実際、編集室の稼働率は非常に高くなっています。ニュースは毎日ですし、番組の細々したものも色々とやっていますので、ほぼどこかが絶対に稼働しているという状況ですね。 − 作業効率面では、いかがでしょう? 川嶋氏:編集室のスケジューリングやファイル転送での時間短縮など、全体的に効率アップは実感しています。ファイル転送などは明らかに違う部分で、テープでリニアだった私のような世代が触れば、それは飛躍的に速いと感じられる部分ですね。また、テープを持ち運ぶという状況と比べてみますと、管理する側からしますと明らかに、素材を送出する部分までの間違いが少なくなりますので、それはメリットだなと感じています。
【ポン出しシステムの活用で効率化と間違い減らしを実現】 続いては、スタジオ機能として新たに採り入れられたポン出しシステムについて、実際に使ってみての実感などを色々と語っていただきましょう。 − 新しいシステムについて、そのほかにメリットと感じられているところはありますか?
− ポン出しシステムには、どういった素材を入れているのですか? 岡本氏:まずは番組のタイトルVTRです。番組内のコーナーVTRとして事前に編集してまとめたものを番組内にインサートで出すということにも行っています。あと、ニュース素材は全部ポン出しですね。ポン出しシステムを使うとそのまま送出に送れますので、とても便利です。 − 登録できる素材の数はどのくらいですか? 川嶋氏:登録できる項目数は、当初は10個だったのですが、これについては特別にカスタマイズしていただきまして、より多くの項目が登録できるようになって使い勝手も向上しています。 − 実際の現場では、どのような操作でポン出しをするのですか? 岡本氏:素材を選択するには、画面内に表示されているサムネールをマウスでクリックすることになります。登録名も自由に替えられますし、並べ替えも自由にできます。サムネールが出ていますので、一発でこれというのがわかりますから出すVTRを間違えることもありませんし、言葉の通り、ポンと押したらすぐに出せますので非常に便利です。とりあえず1週間分の素材を入れておけますし、素材登録についてもファイル転送ですので、リアルタイムの何分の一とかに短縮されます。
【今後の制作は全てHDで。すでにノンリニアのシステムは十分に成熟】 最後に、HD化へ向けての業界の動向や今後の展望などについて、お伺いしてみましょう。 − HDに関しては、どのように考えられていますか? 川嶋氏:今後はHDが主体ということは明らかで、うちではすでに取材から放送までの全部をHDで対応できるようにしています。スタジオも中継車も含めてHD対応のものを配備したということです。この先SDで作っていくということは考えておりません。まずは美しい映像で撮影し放送するということですね。それがこの新しいシステムの全てに通じる考え方になっています。 − 取材段階、あるいは、東京から送られてくる素材などは、どのような状況でしょう? 岡本氏:取材ではほんの一部、中継関係でSDが残っているところがありますが、ほとんどHDになっています。東京から送られてくる素材もほぼHDですし、出しの部分もほとんどHDですね。スタジオのカメラもHDになっています。今やもう、HDであり、ノンリニアであり、デジタルでありという時代ですね。もう後戻りはできないでしょう。 − 局としての今後の展望をお聞かせください。 川嶋氏:岐阜放送としては、まずこのデジタルをマスターし習熟して、1年後あたりを目途に、システム的に「ぎふチャンのシステム」として完成させたいと思っています。そして、地上派放送局として、また、地域に密着した放送局として、どういったコンテンツを発信していくのか、ワンセグなのかデータなのか、あるいはホームページとのリンクなのか、どういったことをやっていけば視聴者に喜んでもらえるのか、といったことを考えられる状況が整ったことで、それに取り組んでいこうと思います。 − 完全デジタルのシステムで、局の新しい未来を切り開いていこうということですね。 川嶋氏:「ワンソース・マルチユース」などのデジタルの持つメリットを生かし、時には発想の転換もしながら、他局さんに負けない「ぎふチャン」ならではのコンテンツを打ち出していきたいと考えています。デジタルを使いこなしていくことで生き残れる道も見出していけるでしょうし、逆に、生き残る道を提示してくれているのがデジタルだと思っています。 − 最後に、これからノンリニアのシステムを入れようと考えているテレビ局やポスプロに向けて、アドバイスなどがあれば、お願いします。 川嶋氏:ノンリニアのシステムについては、あまりあれこれ悩むよりも前に、自分の体をノンリニアに慣らしていくべきだと思います。当然のことですが、どの局やポスプロさんでも個々の使い勝手をノウハウとして持っていらっしゃるはずです。それに合わせたシステムが作れるかどうかということですが、いまやもう、メーカーサイドがそれに合わせたシステムを作る能力を持っています。うちの場合でも、うちがやりたいと思う形についてカノープスをはじめとする、現場を知っているシステム構築のプロに相談をして、それを実現していただきましたから。問題は、それをいつやるか、だと思います。 − 今や、ノンリニアシステムの導入について、ベストな時期になってきたのでしょうか? 川嶋氏:もうすでにノンリニアのシステムは十分に成熟してきています。いずれはノンリニアになるのですから、できるだけ早く対応しておく方が得策だろう思いますね。年を経て新しい機器が出てきましたら、それにはそのときに対応すれば良いことだと思います。もう躊躇することなく、今が旬なのだと思います。
【システム構成図】
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