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豊後 杵築城
大分県の国東半島の南端部に位置する杵築市は、かつては杵築藩松平氏の城下町として栄えた風光明媚な土地。その杵築市の市役所が運営するテレビ局が、「杵築ど〜んとテレビ」 (正式名称:杵築市ケーブルネットワークセンター様)です。
杵築ど〜んとテレビ様ではこのほど、将来を見据えて、局の全システムのテープレス化・ネットワーク化を遂行しました。収録から送出まで、ほぼ全てがトムソン・カノープスの機器で構成されています。
 
杵築市役所 秘書広報課情報化推進係
副主幹 板尾達憲氏
杵築ど〜んとテレビ
テクニカルディレクター 真砂聡一郎氏

【市直営のケーブルテレビ局を開設】

自治体がケーブルテレビ局を開設し、情報発信を行う例は増えていますが、杵築市が直営する「杵築ど〜んとテレビ」様は、どのような経緯で設立されたのでしょうか。

− 「杵築ど〜んとテレビ」を開局された経緯を教えてください。

杵築市役所
板尾氏:市の政策・直営として始めました。難視聴地域の解消、チャンネル数が少ないことから来る情報格差を埋めていくこと、そして自主番組を作り杵築の広報としての役割を持たせたい、という三つの目的がありました。

− 現在作られている自主制作番組は、どのような内容なのでしょうか?

板尾氏:レギュラーの自主番組は1本です。30分の「ど〜んとチャンネル」です。月曜日と木曜日の週2回更新しています。市内で起こったトピックスを中心に、市からのインフォメーションやクローズアップしたい情報を取り上げて市民の方々にお届けしています。

− ケーブルテレビの開局後、杵築市では統合という大きな出来事があったと思うのですが。

板尾氏:うちは旧杵築市で誕生したのですが、誕生から1年半後の2005年に市の統合があり、2006年からは新しいエリアでもケーブルテレビが見られるようになりました。統合によってエリアが広くなり、お互いの地域を知ってもらうためにも、より幅広い取材を心がけています。テレビは目で見てすぐに理解していただけますので、新しい市の一体感を醸し出す手助けにもなっていると思います。

【テープレスシステムによる作業効率の向上、時間短縮の実現】

杵築ど〜んとテレビ様では、収録から送出、アーカイブまでをテープレスで行える先進のシステムを導入されました。新システムによって生み出されたメリットについて伺ってみました。

− テープレスの新システムですが、どのような機材やワークフローを組まれているのですか?

板尾氏:まず、カメラは、ソニーさんのHVR-V1Jにハードディスクユニットを付けてデジタル収録をしています。取材の時点からテープレスです。
真砂氏:一部テープを併用する場合もありますが、カメラがテープとハードディスク、双方のメディアに対応していますので、ハードディスクに取り込み、必要に応じてテープを回す、という感じです。

− 撮影してきた素材は、その後、どうなるのですか?

2台のREXCEEDが見える

板尾氏:ハードディスクに記録された映像ファイルをそのまま、K2 EDIUS Shareのストレージに取り込み、収録と同時に、3台のREXCEED-M500VとREXCEED-M5000による編集作業を行います。編集済みの完パケはファイルで送出サーバーのK2 Media Clientへ送られるという流れです。
真砂氏:撮影部分以外はすべて、トムソン・カノープスのシステムでほぼ統一されていて、テープを使わないままで送出まで行えるシステムです。
板尾氏:また、サブからHD素材を出す場合にはHDSS-P1000による「ポン出しシステム」を使っています。

− アーカイブの部分はどうなっていますか?

板尾氏:完パケは、XDCAMで保存です。撮影素材はBlu-ray Discにファイルのまま保存して、いつでも使えるようにしています。EDIUSには「XDCAMオプション」が付いていて、ファイル転送ができ非常に便利です。

− テープレスのよさというのは、実感として、どのあたりに感じられますか?

真砂氏:テープは立ち上げの時間を考えねばなりません。対して、テープレスであれば、リアルタイムで素材の登録が可能で、収録が終わった時点ですぐに編集に入れるわけです。テープレスは尺が長くなればなるほど有利なシステムですね。
板尾氏:登録した素材をすぐに、4台のREXCEEDを使って即座に編集でき効率的ですね。また、4台のREXCEEDは基本的に同じ環境なので、編集途中で編集マンが入れ替わっても、同様に編集作業を続けられますし、また、同じ共有素材を別々のREXCEEDで同時に利用できるというメリットもあって番組制作の効率を大きく上げる要因にもなっています。
真砂氏:テープレスによるファイルシステムは、作業効率の向上、時間短縮などに大いに貢献していると思います。

− ネットワークで映像情報が共有できる点については、いかがですか?

真砂氏:共有のメリットは、たくさんありますよ。「おおいた国体」が終わったばかりなのですが、競技の撮影素材を持ち帰って編集する場合、同じ素材への同時アクセスは便利でした。分業による編集の場合、テープでは1つの作業が終わるまで待たなければならないのですけど、3台のREXCEED-M500Vで同時に粗編集を行い、そのあとに、REXCEED-M5000で完パケを作り上げていました。非常に効率的な編集ができました。

− REXCEED搭載の編集ソフトEDIUSを使ってのハイビジョンの編集については、いかがですか?

EDIUS搭載REXCEEDで編集中

板尾氏:撮りがハイビジョンなので、そのままハイビジョンで出すことを考えていましたが、その際にネックになるのが編集作業だと思っていました。少しでもストレスのない快適な編集のためにEDIUS搭載のREXCEEDを端末編集機として導入しました。
真砂氏:HQ Codecで編集していますがストレスは全く感じないですね。HDの編集であっても全く問題はなくこなせます。また、様々なファイルフォーマットに対応している点も評価しています。加えて、プロファイルを使ってGUIを自分好みに変えられる点も良いですね。マウスで編集する人、キーボードが得意な人などいますから。編集が苦手だったスタッフも気がついたら使いこなしていましたね。

【テープレス・システムのほぼ全てをトムソン・カノープスで統一】

収録から編集、送出、アーカイブまでのすべてをテープレスで行うシステムは、今後主流になってくるとは思いますが、実際にこのシステムに踏み切られるところはまだ少ないのが現状です。杵築ど〜んとテレビ様では如何だったのでしょうか?

− テープレスシステム採用の動機や導入前の悩みなどを教えてください。

板尾氏:デジタル時代なのに、いちいちテープに戻す作業は必要なのだろうか?という疑問は持っていました。また、テープの保管や管理、テープ代も考えねばなりません。テープレス・システムへ切り替えによる作業効率の向上や時間、無駄な経費の節減を考える時期が来ていたことも事実です。
真砂氏:ただ、テープレス移行に伴い、番組制作の形態を変えるのは困る、と考えていました。以前は、リニアのスタジオ&編集というシステムだったのですが、今回のシステム導入前には、リニアを使い続けるのか、それとも捨てるのか、随分悩みました。具体的にはリニアを設備更新しなかった場合、特にサブでVTRからHD素材を出すことができなくなるため代替案の検討が必要でした。この点が解決しないとテープレスの新システムへの移行は難しかったと思います。その悩みを解消してくれたのは、HDSS-P1000によるポン出しシステムでした。
板尾氏:トムソン・カノープスから、HDSS-P1000を使えば、VTRのようにできる方法を教えていただきまして、一気にテープレスでの番組制作へと流れが進んだのです。

− 番組制作の形態を変えずにテープレスが可能ということになり、その後の機材選択はどうでしたか?

送出サーバーのK2 Media Client

板尾氏:テープレス・システムのコアとも言うべき、ストレージと送出サーバーは、実績や安定性を考え、最初から、K2シリーズの導入を考えていました。送出はK2 Media Client、ストレージはK2 EDIUS Shareですね。つまり、この2つをベースに逆算する形でシステム構成をを決めていったわけです。その場合、機器の相性問題などを気にせずに運用したいので可能な限り同一メーカーで機材を統一したいと考えていました。
真砂氏:1つのメーカーですべてのシステムが構築できる最大のメリットは安心感だと思います。加えて、コスト面も有利ですし、やサポート面でも、一箇所とやりとりするだけなので非常にスムーズです。

− 今、話に出た、送出サーバーのK2 Media Clientはいかがですか?

板尾氏:裏方としてがんばっていますよ。黒子に徹して安定して動いています。コメントのしようが無いくらい安定しています。
真砂氏:本当にトラブルは無いですね。

− テープレス導入の決め手となったHDSS-P1000は、どのあたりにメリットを感じられたのでしょう?

HDSS-P1000による「ポン出し画面」

真砂氏:テープの場合、サブ出しのために人間が1人必要になります。うちでは1人で何役もこなさなないとなりませんから、収録を止めずに送出をしながらスイッチングをして、というケースにHDSS-P1000のポン出しは、すごく強い武器になったのです。テープレスによるファイルベースのシステムだからこそ実現できた部分ですね。

− K2 EDIUS ShareとK2 Media Clientを中核とした新しいシステムは、実際に利用してみて、いかがですか?

板尾氏:特筆すべきは安定稼働です。また、ハイビジョンですと、データ量が非常に大きいので、ローカルでは保管や管理に気を使いますが、データが一箇所にまとまっているので管理は非常に楽です。後日不要ファイルを消す場合も、消してよいのかどうかが一目瞭然でスムーズな運用ができています。

【光ファイバー網を利用した生中継システム】

テープレス・ネットワーク化の新システムとは別に、杵築ど〜んとテレビ様では、自前の光ファイバー網を利用した、生中継番組も放送しています。こちらのシステムについても伺ってみました。

− 杵築ど〜んとテレビ様では、生中継の番組も放送されているとのことですが、どういった番組がありますか?

板尾氏:地域内の大きなイベントの生中継は重要です。8月の杵築花火大会の生中継などがそれで、会場まで行けない方に好評です。また、以前お祭りの生中継をしたのですが、その生中継を見て、実際にお祭りに出かけた方も多く、例年にない賑わいだったそうです。イベントの生中継は非常に効果があるなと感じました。

− 生中継の際のネットワークはどのようになっているのですか?

板尾氏:生中継用ネットワークは光ファイバーです。私どもは自治体ですから、光ファイバー網を自前で持っています。そのインフラを使って大容量の映像データを送ることを考えました。

− 生中継では、HD映像も扱われているのですか?

HD映像をネットワーク経由で伝送するHDCS-3000SR

板尾氏:新システムへの移行に伴い、生中継システムのHD化も視野に入れていましたが、コスト面などの問題から「SD/アナログ」でしかできないだろうと思っていました。その時に、トムソン・カノープスから、ネットワーク経由でHD中継が行えるHDCS-3000SRという機材を提案していただき、自前の光ファイバー網とHDCS-3000SRを組み合わせてみると、コスト的にも画質的にも十分満足できるHD対応のネットワーク中継システムが構築できたわけです。おかげで、光ファイバー網を最大限に活用したネットワーク中継システムができあがりました。



【皆さんに参加していただける番組作りを目指す】

先進のテープレスシステムを導入された杵築ど〜んとテレビ様に、新システムを使われてみてのご感想や今後の展望について伺ってみました。

− これだけのシステムを構築されてみて、トータルなご感想はいかがですか?

板尾氏:大規模なシステムですが、当初の予算よりもだいぶ抑えることができました。コストパフォーマンスが非常に優れているシステムを構築できたと自負しています。テープレス・システムは大分県では初の試みのため、当初は不安もあったのですが、作業を進めていくにつれ不安も解消され、理想が形になった、と感じています。

− 技術面などについて、トムソン・カノープスへの要望などはありますか?

真砂氏: SDとHDではファイル容量が全然違いますので、ファイル転送がさらにスピィディーになって欲しいです。

− 最後に、局としての今後の展開や目標などについて、お聞かせください。

板尾氏:私どもは地域密着の局ですから、地域の皆さんがもっと楽しんでいただける、もっと満足していただける番組を増やしていきたいです。さらにもう一歩踏み込んで、皆さんと一緒に番組を作っていきましょうという取り組みも考えています。ローカルであるがゆえの点をメリットに変えて、うちの番組作りに役立てていきたいです。今回の新システムは私どもの目標を強力にバックアップしてくれると思います。

 
杵築市ケーブルネットワークセンター
(通称:杵築ど〜んとテレビ<KDT>)
http://catv.kdt.ne.jp/
〒873−0001 大分県杵築市大字杵築377番地1
(杵築市役所3階)
0978-62-3131 (市役所代表)
2003年7月に設立され、翌2004年4月にサービスを開始した「杵築市ケーブルネットワークセンター」 (通称:杵築ど〜んとテレビ)は、杵築市役所が直接に運営するテレビ局です。週2回更新される自主制作番組「ど〜んとチャンネル」では、地域の最新ニュースはもちろん、独自に取材した企画コーナーなども充実しており、そのほか、地域内でのイベント中継なども積極的に行っています。市が提供する映像メディアサービスとして、住民の方々から大きな好評を得ています。