Home > システム導入事例

山形県山形市に本拠地を置く山形放送株式会社は、日本テレビ系列のローカル局だ。そして、その山形放送では、カノープスの編集システム「HDWS-1000」を導入した。同局の看板番組の制作現場において、利用するためだ。放送局という先進の編集現場において、カノープスのHDWSシステムがどのように使われているのか、現場からの率直な声をお届けしよう。

【HDWSシステムの導入の経緯〜コストパフォーマンスは最高】

山形放送では、カノープスのHDWSシステムについて、導入するまでは、さほどの期待は抱いていなかったという。それが、実際に入れてみて、予想以上のよさに驚いたとのことだ。まずは、その導入の経緯から伺ってみよう。

− カノープスについては、以前からご存じだったのですか?

名前は存じ上げていました。でも、実をいいますと、機器展でカノープスのブースに立ち寄ることは、あまりありませんでした。

− すると、実際の製品については、どのようにしてお知りになったのですか?

最初にHDWS-1000を使用したのは、カノープスに持ち込みでデモをしていただいた時です。ちょうどその時、借用していたHDVのカメラをつないでみたのですが、簡単に編集ができてしまい、ちょっとした驚きでした。

HD編集システム HDWS-1000

− そして、導入を決められた…と。

当社の場合、新たに出たHDV対応のカメラも視野に入れて編集機の選定に入りました。HDVとHDカムの両方が編集できるシステムということで、ソニーもAVIDもまだ、HDV対応をしていなかったもので…。それで、カノープスはどうだ…、ということで、購入したわけです。それがきっかけで、カノープスとのお付き合いが始まりました。

− 導入を決められた最大のポイントは、どのあたりにありましたか?

もっとも大きな理由は、コストパフォーマンスのよさですね。リニアでシステムを作りますと、すぐに2000〜3000万円位はかかってしまいます。それが、カノープスの場合ですと、周辺機器などをすべて入れても、1000万円ぐらいで上がってしまうわけです。リニアの半分以下の値段で編集システムが組めるというのは、非常に魅力でしたね。

− 確かに、コストパフォーマンスは重要ですね。現在、プロ用の多くのシステムは、とても高価ですから。

正直に言って、カノープスのHDWS-1000は430万円しかしないものですから、多少使い勝手が落ちても、それはしかたのないことだと思っていたのですが、実際に使用してみましたら大変よかったのです。レンダリングに時間がかからないし、操作性もいい、スピードもいい。2005年の7月に導入してからすでに半年間使用していますが、大きなトラブルはありません。他社のノンリニア編集機と比べても、まったく見劣りしないと感じています。

− 実際に導入してみて、どういった感想を持たれましたでしょう。

まったく問題はありませんし、コストパフォーマンスは最高です。こんなにいい機械なら、もっと前からPRしてくれたらいいのに…、って思いましたよ(笑)。

【番組内のコーナーVTRの制作に使用】

HDWSシステムは、生放送で流されるコーナーVTRの制作の現場で活躍しているという。そのあたりについて、伺っていくとしよう。

山形放送に導入されているHDWS-1000システムは主に、夕方の人気番組である「ピヨ卵ワイド 430」(月〜金 16:30〜17:55)のコーナーVTRの制作のために利用されている
(写真左:佐伯敏光アナウンサー、右:小川香織アナウンサー)
− 現在、何セット入れられているのですか?

2005年の7月の時点で、HDWS-1000を4セット導入しました。そのうちの1セットは、CM制作で使用していまして、残る3セットは、夕方の生放送「ピヨ卵ワイド 430」(ピヨタマワイド ヨンサンマル)という番組で使っています。CM制作に関しては、現在SDの制作がほとんどですが、今後HDのCM制作も当然必要になると考え、番組制作と同じ編集機を導入しました。

− 番組では、どのような用途で使われているのでしょう。

「ピヨ卵ワイド 430」は90分番組なのですが、番組内には、5つほどの企画取材コーナーがあります。そこで放送する素材VTRをHDWSで作っています。この番組は、月〜金の帯番組なので、3台の編集機がフル稼働しても足りないんです。それ以外では、ニュース番組のスポーツコーナーで週1回使っています。

− 番組で編集を担当される方は、どのくらいいらっしゃるのですか?

「ピヨ卵ワイド 430」の場合、8人のディレクター兼カメラマンという体制で取材しています。それぞれ8人が、取材してきた番組を自ら編集していますから、3セットでは足りない状況です。最低でも、あと1セットは欲しいところですね。

− システムの入力系統などは、どのようになっているのですか?

入力は、基本的には、HDVかHDカムで撮影したものだけです。その他、ニュースサブのルーター出力をHDSDIで取り込めるほか、DVCPROHDの素材もi.LINK(IEEE 1394)でキャプチャーできるようにしてあります。CMの方では、アナログコンポジットも入出力できるようにHDBX-1000を入れています。

− CMの方だけは、HDBX-1000を入れているわけですね?

CM制作では、D2テープの取り込み/出力のニーズがありますので、HDBX-1000があると大変便利です。昨年の12月初めまでは、D2テープからβカムにダビングして取り込んでいたのですが、これが意外に時間がかかるということで、現場での評判がよくなくて…。HDBX-1000を入れたということです。

女性ディレクターさんがCM編集中 モニタ右側にHDWS-1000とHDBX-1000を配置

− HDVについては、いかがですか?

HDVはいいですよ。当社では、HDVカメラは全部で9台導入しまして、そのうちの2台は支社に回しましたので、本社では7台で運用しています。4台あるHDカムと映像と比較しても、その差は、わからないですね。番組の放送をサブ(副調整室)で見ていても、どっちで撮影したものかは、よく見ないとわからないです。

「ピヨ卵ワイド 430」収録中 「ピヨ卵ワイド 430」編集中
(HDWS-1000 はHDCAMの下に設置)

【現場での評判が、その実力を実証】

制作の現場において、実際に重宝されている機能には、どういったものがあるのだろう。そのあたりの詳しいところを聞いてみよう。

− 現場における使い勝手について、さらに細かなところもお伺いしたいのですが…。

まず、HD SDIの出力が2つ出ているところは、素晴らしいと思いましたね。他社製品は、いろいろな入力が付いていても、出力は、HD SDIが1つしかないのが実情です。AVIDも、XPRIも…。1つしかHD SDIが出ていないとなると、結局、モニターに渡すときに、分配しなくてはなりません。HDの分配器を入れるだけで、20万円もかかってしまいます。

− 出力の返しは、VTRとモニターにそれぞれ1つずつ、ということですね。

1つをVTRに返して、1つをモニターに出すというのは基本です。その点、カノープスは、非常によくできていると思いますね。それも、エンベ(Embedded)になっているところが素晴らしいと思いますね。ルーターなどに送るときは、音声も一緒に送り込めて便利です。

− 実際に、ルーターに送り込むようなことは、あるのですか?

あります。当社は、館内のデジタル信号を同軸(ケーブル)で回しています。エンベになっていると、映像と音声の切替が同軸一本で行え、位相差もないのでいいですね。そうでないと、音声は音声のルーター、映像は映像のルーターが必要になってきますので、コストがかかります。

− そのほかには、ありますか?
左側のモニタの前に フェーダーコントローラ「EDIUS-FC1」が見える。HDWS-1000に搭載されている編集ソフト「EDIUS Pro 3」専用のモーター制御フェーダーで、タイムラインのオーディオトラックを直接コントロール/レベル調整が可能となる。

映像をタイムラインに貼り付ける時、フレームをぴゅーっと伸ばせるというのは、いいです。他社では、指定した秒数分の静止画を作らなくてはならないのですが、カノープスの場合には、使いたい時間だけ静止画を伸ばせばいいのですから、便利です。また、リアルタイムでプレビューができるところがいいですね。レンダリングしなくともプレビューできるのは、編集していてやりやすいと聞いています。

【来るべきHD時代を先取りした放送態勢を確立】

ハイクォリティな映像を一般視聴者に送る使命を持つ放送局としては、常に次世代を見据えた放送態勢が問われることになる。山形放送の抱く将来構想は、どういったものであろうか。

− 将来的には、サーバを中核に置いたシステムというのは、ご検討されていますか?

送出までサーバを使ったらどうかという人もいるのですが、今のところはまだ、私個人としてはテープの方が便利だと思っています。素材を一つ削除するとか、送出順序を変更するといったことをサーバで管理するとなると、かなり大変だと思います。また、維持費も相当にかかります。当社では現在、ニュースはサーバで送出しているのですが、便利な反面、年間の保守費は高騰しているのが現実です。

− HD化に向けての動きというのは、いかがですか?

現在、カノープスのシステムを使って制作をしている「ピヨ卵ワイド 430」でのHD化率は、90%以上になっています。なぜHD化率100%ではないかといいますと、駅前などから中継しているカメラがHDになっていないことと、ひとつのコーナーで放送している他局制作の素材がSDだからです。ピヨ卵で作った素材VTRについては、ほとんどHDになっています。

− 視聴者レベルでは、SDで見ている人もまだまだ多いですよね?

現在は、4対3のアナログテレビを見ている人の方がずっと多いと思います。「ピヨ卵ワイド 430」でも、今のところ、4対3を基準に撮影をしています。16対9の映像は多少ルーズになってしまうのは、しかたのないことと考えています。そもそも、両方の画角を満足するように撮影することは、不可能だと思います。地上デジタルテレビを見る人の方がアナログテレビを見る人より多くなった時には、16対9をメインにした番組が放送されると考えています。

− いずれは、HDになっていくとは思いますが…。

当社はすごくデジタル化が進んでいます。制作中継車、報道中継車、SNG車など、すでにHD化されています。ローカル局の中で、最もHD化が進んでいる局だと思います。HDの方が圧倒的に画質もいいわけですし、放送局としては、視聴者のニーズに応えるためにも、それなりのクォリティで放送しなくてはならないと考えています。

− クォリティは大切ですよね。

ええ、クォリティは大切です。例えば、大きな事故などのニュース素材では、その事故が大きければ大きいほど、素材を使い回しする回数も増えますので、きめの細かいHDで欲しいということになってくるわけです。また、サッカーやバレーボールなどのスポーツ中継は、16:9のワイド画面ということで、とてもリアルな迫力のある映像です。

【430万円の中ですべてができるのは、素晴らしい】

これから、ノンリニアの新しい編集システムの導入を検討しているローカル局などに向けて、一足先にシステムを導入した山形放送から、検討すべきポイントなどについてのメッセージをいただいた。

− カノープスのシステムは、今後、放送業界において、どのような位置を占めていくことになると予想されますか?
「カノープスは宣伝が下手!良い製品だからこそ、積極的にアピールしなければ」とおっしゃる荒井氏

正直な話、カノープスはこれから、多くのテレビ局で使われるのではないでしょうか。今後各テレビ局とも、撮影したHDテープをどうやって編集するのかが、一番の課題です。カノープスのHDWS-1000は、430万円でHD編集ができるというところを、もっとアピールしたほうがよいと思います。どうもカノープスは宣伝が下手ですね(笑)。

− いま、ローカル局やCATV局では、HDに対応した新しいシステムの導入を検討されているところも多くあります。そうしたところに対して、メッセージはありますか?

まず、編集機を選択する前に、どのようなカメラで撮影するのかということを考える必要があると思います。カメラがHDVなのか、HDカムなのとか、DVCPROなのか、何で撮影するかという事が大きいと思います。そして、それに見合った編集機を導入しないといけないと思います。

− 時期的なことについては、いかがでしょう。

山形放送では2006年12月に、地デジの県内のカバーエリアが95%になります。他局でも順次、デジタルのエリアが拡大してゆくわけですから、アナログ波が終わる2011年よりも前にはHDがメインで放送される時代が来ると思います。

− 最後に、これから導入を検討されているローカル局などに向けて、カノープス、あるいは、カノープスのHDWSシステムに対する評価をお知らせ願えますか?

カノープスは、HDVなどにしても、対応が早いと思います。こういう、企業努力とか技術力とかは、素晴らしいと思いますね。大きいメーカーですと、新しいものを採り入れようとすると、時間がかかるのが常なんですが、カノープスではHDVやDVCPROの取り込みなど、いち早く対応している面は素晴らしいと思います。HDWS-1000のバージョンは、現在3.61なんですが、今後より一層のバージョンアップを進めていただいて、レンダリングを必要としないエフェクトなどが増えていくことを期待します。また、身近な地域にサポート拠点を増やして、サポート体制の充実を図っていただきたいと思います。

山形放送は、来るべき本格化デジタル時代に向けて、先進的な取り組みをしている放送局だった。いま、地方局に対しては、これまで、キー局では作り得なかったような地方局ならではの放送コンテンツに、大きな期待が寄せられている。今後、山形放送から、HDのハイクォリティに加え、特色のあるコンテンツが発信されていくことを楽しみにしたい。そしてそこでは、カノープスのHDWSシステムが活躍していることだろう。

山形放送株式会社 http://www.ybc.co.jp
(本社:山形県山形市)

山形放送株式会社は、テレビ放送を中心に、ラジオやイベントなど、多角的な展開を行っている日本テレビ系列の地方(ローカル)局。山形新聞ともタイアップしている。デジタル化への取り組みは、多くの地方局の中にあっても、もっとも先進的だ。